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大分地方裁判所 平成2年(ワ)431号 判決 1992年10月22日

原告 国

右代表者法務大臣 田原隆

右指定代理人 小尾仁

吉田徹

下田隆夫

畠山和夫

松本清隆

西村裕行

白石芳明

安森和義

伊藤大蔵

原尻真二

寺田英輔

長谷川弘治

被告 株式会社西日本銀行(旧商号・株式会社西日本相互銀行)

右代表者代表取締役 後藤達太

右訴訟代理人弁護士 近江福雄

作間功

主文

一  大分地方裁判所平成元年(ケ)第七号不動産競売事件について、同裁判所が平成二年六月一八日作成した配当表のうち、被告に対する配当額を四〇三七万円、原告(熊本国税局)に対する配当額を〇円とした部分を、被告に対する配当額を二〇八二万八五〇〇円、原告に対する配当額を一九五四万一五〇〇円と変更する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求原因1、2、3(一)ないし(四)、(七)の事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない≪証拠省略≫によれば、同3(五)の事実(ただし、本件甲租税債権については本税を一二〇五万二五〇〇円として配当要求した。)が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  抗弁1ないし3、4(一)の事実は当事者間に争いがない。

同4(二)の事実を認めるに足りる証拠はない。

三  本件A債権の弁済について

1  再抗弁1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない≪証拠省略≫、原本の存在と成立に争いのない≪証拠省略≫、証人松本仁告及び同木村正史(後記信用しない部分を除く。)の各証言によれば、被告は、本件外国為替予約契約に基づき、昭和六二年二月九日堀に対し二〇万一九七四・五〇米ドルを売渡し、堀は同日本件口座から引き出した三〇九五万六六三一円をもって右代金を支払うとともに、右二〇万一九七四・五〇米ドルをもって本件A債権を支払ったことが認められ、証人木村正史の証言中右認定に反する部分は信用することができない。

そして、前掲各証拠と、成立に争いのない≪証拠省略≫、原本の存在と成立に争いのない≪証拠省略≫によれば、被告から堀に対する昭和六二年二月九日の二九八〇万円の貸付、堀の本件口座からの右貸付金を含む金員の引出し、本件外国為替予約契約の実行、外貨による本件A債権の支払といった一連の取引は現実になされ、これに伴う資金の移動も現実にあったのであり、単に被告の帳簿上の処理にすぎないものではないことが認められる。

右認定事実と、前記争いのない抗弁1ないし4の事実によれば、本件A債権は昭和六二年二月九日弁済により消滅したものというべきである。

3  被告は、堀に対する本件A債権と本件B債権は実質的にみて同一性を有する債権である旨主張するので、以下検討する。

(一)  成立に争いのない≪証拠省略≫、証人木村正史の証言によれば、被告の堀に対する昭和六二年二月九日の手形貸付は、堀が本件A債権を弁済期に弁済することができなかったので、実質的には被告がその弁済を猶予する目的で行ったものであること、被告は、その際堀に対し、昭和六一年八月七日の手形貸付の際に堀から振出を受けた金額一九万三〇〇〇米ドル、満期昭和六二年二月九日の約束手形を堀に返還しなかったことが認められる。

ところで、外貨建債権について弁済猶予の目的を達成する方法には、本件の一連の取引を行う方法のほか、外貨建債権について弁済期を延期する方法、外貨建債権を消費貸借の目的として円貨建の準消費貸借契約を締結する方法等が考えられる。弁済期を延期する方法は、債権者が為替リスクを負担し、外国為替予約契約につき不履行の問題が生じるが、債権の同一性は当然に維持され、準消費貸借契約を締結する方法は、外国為替予約契約につき不履行の問題が生じるが、債権者の為替リスクは回避され、債権の同一性は原則として失われないと考えられる。従って、被告は、本件A債権の同一性を失わせないで弁済猶予の目的を達成する方法を有していたということができる。

そして、被告の堀に対する昭和六二年二月九日の手形貸付は、実質的には本件A債権の弁済を猶予する目的で行われたものであるが、右のとおり被告は他に弁済猶予の目的を達成する方法を有していたのに、前記の一連の取引を行って堀から外貨により本件A債権の支払を受けたのであるから、本件A債権は弁済により消滅したものというべく、本件A債権が本件B債権の範囲内で存続し、又は本件A債権が本件B債権に変更されたということはできない。また、被告が右手形貸付の際堀に対し前記約束手形を返還しなかったことから、直ちに本件A債権が本件B債権の範囲内で存続し、又は本件A債権が本件B債権に変更されたということはできない。

(二)  前判示の事実関係によれば、被告は、昭和六二年二月九日堀との間において外貨建債権である本件A債権を円貨建債権である本件B債権とする旨の合意をしたものではなく、被告が堀に対し二九八〇万円を貸付け、その後本件A債権と本件B債権とは一時的にせよ併存していたのであるから、被告が同日堀との間において本件A債権のうち二九八〇万円を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結したものとはいえない。

(三)  従って、被告の主張はいずれも理由がない。

4  以上によれば、本件A債権は弁済により消滅したものであり、本件A債権と本件B債権とは同一性がないというべきである。

四  よって原告の本訴請求は理由があるからこれを認容

(裁判官 丸山昌一)

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